事例研究 〜私のパソコン活用法〜




図5:パソコンを中心としたシステム構成(私の場合)

 前述したように、個人情報システムは、その個人が置かれている環境、仕事、家族構成、趣味・嗜好などにより、すべて方法が異なる。従って、私のパソコン活用法は、あくまで一例にすぎず、あまり参考にならないかもしれない、しかし、考え方は一般にあてはまると思うので事例研究(ケーススタディ)として採りあげる(図5参照)。

主力パソコン(実用化領域その1)

 私の主力パソコンは、NEC PC−9801NS/Lというノート型のパソコンで、会社以外の私的データは全てこのパソコンの記憶装置に入っている。使用しているソフトは基本ソフト(MS−DOS)、編集ソフト(VZエディタ)、通信ソフト(Air Craft)の3つである。
 会社での仕事と異なり、自宅ではプログラムを作成したり、資料を作成したりすることがないため、自宅での使用は、パソコン通信の電子会議室を見たり、発言をするための文章作成が主な用途である。
 パソコン通信は、商用ネットNIFTY−Serveの会員で、最もよく見にいく電子会議室は、「知的生産の技術フォーラム」という会議室である(注1)。私の使っている通信ソフトは、見に行きたい会議室をあらかじめ設定しておくと、自動的に会議室の発言を読み取って、パソコンにデータとして蓄積してくれる。実際に発言を読んだり、自分で発言の内容を考えて文章を作成するのは通信中ではない。
 また、通信ソフトがデータを蓄積する時に、私宛の電子メールが届いている時は、それもパソコンにデータとして蓄積してくれる。
 これまで、毎年、年賀状に電子メールの会員番号(アドレス)を書いていたのだが、電子メールをくれる人がここ1〜2年で急に増えた。商用ネットの会員番号は、世界最大の通信ネットといわれるインターネットの識別番号(アドレス)としてもそのまま使えるため、勤務先企業のパソコンからインターネット経由で電子メールをくれる人が増えたのだ。
 「知的生産の技術フォーラム」という会議室には、職業も年齢もさまざまな人が、毎日300人程、見にきている。そこに書かれた発言を読み、そこに自分の意見を書くということを毎日やっているが、それぞれの方が持っている情報や考え方を共有でき、たいへん勉強になる。いわば毎日異業種交流会をやっているようなものだ。全国から人が集まる交流会であるため、全国どこに住んでいても参加できるし、地方の情報も入ってくる(注2)
 そして、一般の異業種交流会と異なり、ここに発言された意見や、自分が述べた意見はすべて、電子データとして自分のパソコンの記憶装置に残ることになる。
 通常の交流会であれば、300人の参加があっても、会話ができるのはせいぜい10人までである。ところが、電子会議室の場合は、発言者すべての発言を読むことができ、また自動的に記録も残る。さらに自分が発言した内容も全て記録されるのである。
 よく、日記を書くと考えがまとまったり、過去に逆のぼって、自分を見つめ直すのにもメリットがあるというが、会議室で発言するということは、パソコンで日記を書いているのと同じことである。また、誰かに読んでもらうことを前提として文章を書くという、日記を書くよりも優れた面もある。
 この場合、図3の(5)からも明らかなように、入力の手間を、出力の効果が上回っているのである。
 黒崎政夫は「パソコン通信の電子会議室は文章表現のカラオケ化」だと言っている(注3)。カラオケは、少数の歌手に独占されていた、プロの伴奏で歌うという行為を、大衆に解放した。それと同じように、パソコン通信は、「もの書き」という小数の集団に独占されていた、公表を前提にした文章を書くという行為を、大衆に解放したという。
 立花隆などが指摘しているように(注4)、コンピュータは検索が得意である。書いた文章は特定の単語、例えば「パソコン」という検索語を入力することによって、パソコンについて書かれた発言、自分で考えたことが瞬時に抽出される。本論分も、この機能を使って書かれた。
 野口悠紀雄は、アイデアを産み出し、創造的な活動をするためには、インキュベイター(発想を促してくれる知的な人々)を周りに持つ必要があると言っている(注5)が、私にとってのインキュベイターは、この電子会議室での意見交換である。
 パソコン通信は、これ以外に書籍の注文に利用する。現在、新刊書は1日に何百種類も出版される。従って、新聞で見かけた新刊書を近くの本屋で買おうと思っても、まず見つからない。本屋も、取次店から送られてきた新刊書をすべて並べるわけではない。だから、私は、新刊書を本屋で探すことは不可能だと考えている。もちろん話題の書籍であれば、たまには見つかるかもしれないが、書名と出版社がわかっていれば、そんな行為は時間の無駄である。したがって、指名買いの場合は、100%パソコン通信による注文で購入する。ベストセラーであれば翌日、そうでなくても2〜3日で届くので、とても便利である。
 また、ときどきパソコン通信で新聞記事検索も行う。これを行うようになってから、毎日、紙ベースの新聞を読む時間がぐっと減った。見出しだけは、一通り流し読みするが、興味のあるテーマであっても、全文を読まないこともある。パソコン通信を使って、過去の記事にさかのぼって読み返すことが、極めて簡単にできるようになったからだ。
 最新情報はテレビですませ、過去情報はパソコン通信の新聞記事検索が使えるようになったので、現在、紙ベースの新聞で最も良く読むようになったのは、新聞に記載されている広告と、折込広告である。

携帯端末(実用化領域その2)

 私は主力パソコン以外に、オアシスポケット3という、最近ではミニノートサイズと呼ばれる大きさの携帯端末(携帯型ワープロ)を持ち歩いている。重量が500gで、単3乾電池で10時間使用できる携帯に便利な機械である。これを少し改造し、主力パソコンと同じ編集ソフト(VZエディタ)を組み込んで使っている。
 一般に、自分のスケジュールは、日付の入った市販の手帳に記入するが、私はこの携帯端末に、スケジュールを入力するための専用の文書ファイルを作成している。専用の文書ファイルと言っても、「7月1日」なら、「7/1」と入力し、土曜日なら「+」、日曜日は「*」というマークを入れて改行しているだけである。半年分くらいの日付を入力するのに、10分もかからない。ここに、会議などの予定を記入するようにしている。
 また、会議の記録やメモなども、この同じ文書ファイルに書いてしまう。詳細な記録をとる必要がある場合は、別に文書ファイルを作成し、スケジュール用の文書ファイルにはそのファイル名だけを書いておく。そうすると、編集ソフトの「タグジャンプ」という機能を使って、スケジュール用の文書から、直接、詳細な内容を書いた文書ファイルを呼び出すことができる。
 梅棹忠夫は、「どんな経験も記録がなければ、それはまったく無価値だ」(注6)として、日記の必要性を述べている。それに加え、野口悠紀雄はスケジュール管理と日記が連動できれば理想だが、スケジュールの入力は時間がかかりすぎるので、スケジュールは紙で管理せざるを得ないと言っている。彼は、パソコンが改良されても、おそらく最後まで残るのはスケジュール管理であるとまで言いきっている(注7)
 しかし、前にも述べたように、個人情報システムは人それぞれ、異なるものである。スケジュール管理をパソコンでやると理想的なのであれば、それが可能な環境にある人は実行すればいいと思う。私の場合は、補助的に紙(スケジュールファイルを印刷したもの)を併用すれば可能なので、パソコン(携帯ワープロ)で管理している。
 その他、携帯端末は、外出の時に、パソコン通信の蓄積データを読んだり、発言のための文章を書いたりするのに使っている。これさえあれば、喫茶店でも、新幹線の中でも、どこでも文章が作成できる。とくに喫茶店の場合、ノート型のパソコン(A4サイズ)を持ち込むと、周囲の客に一度は見られるが、携帯端末の場合は、そういうことがない。コンパクトなため違和感がないのである。
 私の携帯端末のもう一つの使い方は、携帯電話と接続してパソコン通信で電子メールを送ったり、FAXを送ることである。これは、携帯端末の電源容量に制限があるために、常用するというよりも、非常用としての使い方になっている。しかし、いつでもどこでも、いざとなればパソコン通信ネットに接続できるというのは、絶大な安心感がある。

 ここまでが私にとっての実用化領域(これまでの説明で言えば、Aの領域)である。要するに、
 1 技術的に成熟期にある文字処理機として、利用している。
 2 多くの時間を習熟にかける必要のあるソフトの使用を避けた。
   また、かかる手間と出力の効果のバランスを考えた。
 3 既に、かなり社会的に認知されている商用ネットに利用を絞っている。
などである。

未実用化領域(B)・未発見領域(C)

 近年、マルチメディア社会の到来が言われるが、具体的なイメージは貧弱である。ビデオ・オン・デマンドなどの家庭利用は、現在ほとんどの家庭がアナログ方式の電話回線であることを考えると、投資対効果が極端に低く、実現可能性はほとんどない。そもそも300円のレンタルビデオでも、利用しない人は多い。
 マルチメディア技術の特徴は、数値・文字・画像・音声などの情報が、すべてデジタル情報として同一に扱われることである。そして、情報がデジタル化することにより、
 1 編集しやすい
 2 保管しやすい
 3 検索しやすい
というメリットが出てくる。ただし、画像・音声については検索メリットがあるかどうかは未知である。
 私は、最近、カシオのQV−10Aという液晶付きデジタルカメラを用いて、画像記録を行っている。ある場所に行ったとき、画像データとして記録しておけば、自分の記憶の補助になるからである。
 ある場所の状況を文字で記録しようとしても、限界がある。どんなに鋭い描写で表現された文字の記録でも、一枚の写真にかなわないことがある。また、文字による記録の場合は、記録者の変換作業が入ってしまうので、記録者の情報受容感度と記録時点での問題意識に記録内容が限定されてしまう。
 とくに、蓄積情報として、後に利用しようとするなら、例え記録者と同じ人間がその情報を利用しようとしても、その時には問題意識が異なってしまっている。その点、画像による記録であれば、文字ほどシビアな問題にならない。


図6:情報と出力の関係(出所:筆者作成)

 図6に情報と出力の関係を示した。(1)のように、文書情報(例えば日記)を分析しようとしたとき、ある時は、「パソコン」というキーワードで、またある時は「アミューズメント」というキーワードで検索したいとする。テキスト形式で日記をつけていさえすれば、その言葉が含まれる文章を簡単に出力することができる。キーワードは、検索したいと考えた時点に思いつく言葉で済む。ところが、いくらアミューズメントに関係した文章があっても、「アミューズメント」という単語を含んでいなければ、出力することは不可能である。ここに、文字データの最大の欠点がある。
 ところが、(2)のように、渋谷の群衆写真を情報として持っていれば、例えば、「カップルの比率」、「女子高生の靴下の長さ」、「暖色系の服装の比率」と言ったような、さまざまな角度からの分析が可能である。しかもその分析する視点は、情報の入手時点ではまったく意識しなくていいのである。
 このように、画像による蓄積はメリットが大きいのだが、最大の問題は、検索である。文字情報なら、文中にふくまれる単語をキーワードとして入力すれば、簡単に呼び出すことができるが、画像の場合は、探すのが大変である。これが、現在の検討課題である。インターネットのホームページ(画像入りの画面)で標準的に使われている文字と画像を混在した形式(HTML形式)に対応した編集ソフト(WZエディタ)での整理を検討中である。
 なお、液晶付きデジタルカメラの特徴は、撮影コストがかからず、撮影後すぐにとった写真が見られることである。従って、どんなものでもメモ代わりに記録でき、しかも確実に記録できたかどうかがその場でわかり、駄目な場合は、すぐまた取り直しが効くことである。テレビの画面、名刺、新聞広告、机の上など、ありとあらゆるものをメモ代わりに撮影するような使い方に向いている(注8)
 パソコンには直接関係ないが、メモについては、ボイスレコーダーを実験中である。「メモラ」という商品で、メッセージを3種類録音でき、簡単に再生できる。手でメモするのがめんどうな時、自動車の運転中など、手書きメモできない時に、口述で直接メモしようというものである。自動車の車内というのは、アイデアが生まれやすい。三輪正弘は、車の助手席に乗せてもらう時、「運転という半ば知的な、半ば機械的な作業のとなりにいると、何となく運転そのものがばかばかしく見え、少し単調な走りが続いていると、助手席の人間はあれやこれやと頭の中にその単調さを破ろうとする情動が湧いてくる。」として、こういう時、レベルの高い知的活動が可能だと述べている(注9)
 また、通信環境については、インターネットのホームページをときどき覗いている。インターネットのホームページからこれまでに得たメリットは、新製品のカタログが発表直前に手に入ったことと、住専処理策についての政府の公式コメントが手に入ったことくらいである。あらかじめ、画面番号(URL)がわかっていて、ホームページでしか手に入らない情報に限って、必要があれば利用している。利用回数は、平均すると1カ月に1回くらいなので、現時点で私にとっては、とても実用化領域には入れられない。インターネットのホームページは、まだ技術的にも社会的にも成長段階なので、あまり深入りしないようにしている。専門のプロバイダ(インターネットの接続会社)との契約もせずに、商用パソコン通信ネットPeopleの会員向けサービスを利用している。
 ただし、インターネット経由の電子メールは、既に実用化領域に入っている。電子メールの受発信は、インターネット専用ソフトを使わず、すべて商用ネットの会員番号を使うことによって、「電子メールの一元管理」「電子メール受発信操作の習熟時間の短縮(ノウハウの流用)」を実現している。
 その他、注目しているのは、辞書関係である。百科辞典など辞書類がCD−ROMで供給されており、値段もこなれてきたので、導入を検討中である。ただし、英和・和英辞書については、フリーソフト(パソコン通信で配布される無料のソフト)を、既に主力パソコンに導入している(ほとんど使ってないが)。
 なお、画像、インターネットのホームページ関係は、新しい基本ソフト(ウィンドウズ3.1)が必要なため、主力パソコン(386型パソコン)ではなく、サブノートパソコン(486型パソコン)を使用している。また、主力パソコンはCD−ROMが接続できないので、この場合も、サブノートパソコンを使用する。サブノートパソコンは、この他、携帯端末とのデータ交換(主力パソコンに記憶用カードの挿入口がないため)や、データのバックアップ(大容量の記憶装置を接続している)に使用している。

 B、Cのポイントは、サブノートパソコンを実験用パソコンと位置づけ、実用化領域のために使用している主力パソコンの使用条件に影響を与えないようにしていることである。新しいソフトや、機器は、最新型の基本ソフトを使用しないと使えなかったり、記憶装置の多くの資源を無駄に使用する傾向がある。そのため、実験用パソコンを別に分離することにより、実用化領域が生み出している利益に影響を与えないようにした。
 実験用パソコンでは、切り替えにより、最新型の基本ソフト(ウィンドウズ95)も動作するが、本体内記憶領域(メモリ)が少ないため、処理速度は実用的でない。しかし、実験するだけなら、多少処理が遅くても問題ない
 画像、音声などの分野にも興味を持っているが、デジタルカメラやボイスレコーダーのように、簡単に操作できることが第一条件である。操作が複雑なものは、リスクが大きいし、続かない。

おわりに


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