おわりに



自分のパソコン活用戦略が必要

 企業の経営戦略は「環境適応のパターン(企業と環境とのかかわり方)を将来志向的に示すもの」(注1)である。企業は、限られた資源を有効に活用し、さまざまな環境に適応しながら、最大の効果をあげていかなければならない。
 個人が、パソコンを活用する場合も、これに似ている。パソコンをとりまく環境は、どんどん変化している。資金も限られている。そこで、さまざまな環境に適応しながら、最大の効果をあげていくための戦略が必要となる。
 実用化領域のパソコンと実験用パソコンを分けた例をあげたが、これは、企業でいうと、採算のとれる事業部門と将来投資のための研究開発部門を分けることにあたる。実用化領域の部分だけを購入し、実験用パソコンは、勤務先のパソコンを使ったり、インターネットカフェ(インターネット端末を利用できる喫茶店)を利用するのもいい。実用化という意味で言えば、既に45%もの家庭に普及している、専用ワープロ機を活用するのも一つの手である。
 あふれる情報、業界の企業戦略(図7を参照)、社会の変化。こうした環境に適応し、新しい技術を有効に活用するためには、技術的な知識以上に、自分の戦略が必要になる。これは、誰も考えてくれない。


図7:パソコン業界の戦略(出所:筆者作成)

     既存の製品が未だ使用に耐え、また、利潤寄与の可能性を持っているにも関わらず、最大利潤追求の観点から計画的、組織的に行い、その製品のライフ・サイクルを意識的に短縮化させて、取替需要を喚起する政策を「計画的陳腐化政策」という(小島三郎編著『現代経営学事典』税務経理協会、1978年)。
    近年のパソコン市場は、特定のメーカーによる政策と言うよりはむしろ、ハードメーカーと市販ソフトメーカーを含めた、業界ぐるみの計画的陳腐化政策とでも言うべき状況にある。
     市販ソフトが版数を変更すると、機能が増え、プログラムが大きくなり、より高性能なハードを要求するという繰り返しが行われ、1つの機種のパソコンの寿命が短くなっている。
     上図は、ハードの性能と市販ソフトの関係を表している。市販ソフトが要求するハードの性能が大きいために、パソコンの寿命がその個別の製品のモノ的な事情(故障など)に関係なく、決定されてしまう。
     その結果利用者は、使用しているパソコンの性能が、市販ソフトがハードに要求する性能の下限を下回った時点で、新たな市販ソフトの使用をあきらめるか、ハードの買い換えをするかの選択を余儀なくされる。

企業などの組織との関係

 ここまでは、あくまで個人が家庭(=企業などの組織以外)での使用を前提としてパソコンをどうとらえるかを述べた。しかし、思考力を増幅する道具を持った個人が、その思考力を活用する機会が多いのは、各個人が所属する企業などの組織との関わり合いの中にある。
 野口吉昭は、バブル崩壊後に現れた日本の弱点として、「考えなくてすむ社会」をあげている。島国の中の単一民族が国家を興し、国家を成長させてきた日本は、根っからのタテ型社会であり、その社会にあるタテ型意識は、高度経済成長期には功を奏したが、一方で、閥や系列ができ、官僚が権力を持ち、規制をつくり、企業の行動を統轄することにより、日本人も企業も考えなくてすむようになったというのである(注2)
 そして、現在は、企業人が自分自身で考える風土が必要であって、「自分のことをよく知り、自分にあった能力発揮の場を探す責任はすべて自分にある。」(注3)と述べている。
 冒頭で、家庭にパソコンが脅迫観念で買われていると述べたが、これは表面的には、企業内通信網やデジタル社会への参加に遅れたくないという意識の表れである。しかし、もっと大事なことは、ものごとを個人自身で考えていく姿勢であって、個人情報システムの一部にパソコンを加えるかどうかというのも、その考えの中の一つの選択にすぎない。

「家庭用パソコンは必要か?」目次に戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送